桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「大丈夫か、杏凛? そろそろチェックアウトして、家に向かおうと思うんだが」
スーツに着替えた匡介さんから声をかけられて、慌てて彼のもとへ。
昨日の夜遅くに匡介さんの補佐をしているという男性が、替えのスーツや仕事用の鞄を持ってホテルまで来てくれたらしい。
学生時代からの長い付き合いの相手だから、心配しなくていいとも言ってくれた。
「ごめんなさい、仕事の時間は大丈夫? 私なら一人で家まで帰れるから……」
「心配いらない、杏凛を家まで送る時間は充分にある。君が気にする必要はない」
過保護な匡介さんらしい答えに、さほど驚くこともなくなってきた。この人はいくら私が一人で帰れると言っても聞きはしないでしょう。
無駄にごねずに匡介さんに家まで送ってもらう事にして、ホテルの売店で朝食用のパンを買って帰った。
ホテルからタクシーに乗り、無言のまま家に送り届けられる。昨日の事もあって何から話せばいいのかもよく分からずにいると……
「不安なのか、杏凛」
不安、どうなんだろう? 昨日の事で、自分の事が分からなくなったという戸惑いはある。匡介さんにきちんと教えて欲しいという気持ちも。
でも、どれも今はどうしようもないことだから……
「大丈夫です、私はこう見えてもしっかり者だと言われてるので」
「そうか。さあ、家についた。俺はこのまま仕事に向かうから、杏凛は家でゆっくり過ごしているといい」
そう言って私を家の前で降ろすと、匡介さんはそのままタクシーに乗って会社へと行ってしまった。