桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「ま、待ってください! 私もついて行きますから」
タクシーを拾おうと大通りに出たところで、走ってきた寧々が私に追いついた。優しく面倒見の良い彼女ならきっとこうするだろうとは思っていたけれど。
「無理しなくていいのよ、寧々。私はともかく貴女まで匡介さんに叱られるかもしれないし……」
自分が匡介さんに怒られるだけならいいが、寧々まで巻き込みたくはない。私にとっては寧々は姉のような存在で、大事な人には変わりないのだから。
だけどその気持ちは寧々も同じようで、私の手を掴んで離そうとしない。
「お客さん、乗らないんですか?」
目の前で停まり後部座席のドアを開けた運転手が声をかける。その運転手に「乗ります」と言って寧々は私の腕を掴んだままタクシーに乗り込んだ。
「この住所までお願いします」
スマホの画面を運転手に見せて、寧々はそう言った。私の実家はここから少し離れている、私が説明するより寧々の行動のほうが早かった。
「私が、杏凛様を実家まで連れて行くんです。いいですね?」
やけに強調された言葉が最初は分からなかったが、寧々の言いたいことを理解すると胸が苦しくなった。彼女はもし匡介さんに叱られるようなことになっても、その言い訳に自分を使えと言っているのだ。