桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「話してくれるわよね? 私にはそれを知る権利があるはずよ」
強い口調でそう言えば、両親は諦めたような表情でお互いの顔を見合わせていた。
そこまで言いたくない理由ならば、私にとってもいい事ではないとさすがに分かってしまう。それでも私は自分の失った記憶ときちんと向き合いたい気持ちがあった。
……この時はまだ、自分はきっと大丈夫だという自信があったのかもしれない。
「いつまでも隠しておけないとは思っていたが、本当に覚悟は出来ているんだな? 杏凛」
大きな溜息を吐く父と、オロオロと落ち着かない母。二人が私の事を心配してくれているのは有難かったが、私も前に進みたかったから……
「出来てます、だから全部聞かせてください」
真っ直ぐに父を見つめて、そのまま目を逸らさない。私が今日ここまで来たのは中途半端な気持ちじゃないと両親に伝えるために。
「そうか、分かった。何から話そうか、そうだな……杏凛は橋茂 郁人君を憶えているか?」
「郁人君? ええ、うちの会社や鏡谷コンツェルンと関わりのある橋茂社長の息子さんよね? 確か子供の頃よく遊んでくれていた……」
匡介さんと同じく郁人君も昔は親同志の集まりによく顔を出していた。少し引っ込み思案だった彼を「お兄ちゃん」と呼び、私はよく連れまわしたものだった。
しかし、その郁人君がなんだというのだろう?