桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
そこで匡介さんが一呼吸置いた、彼も緊張しているのかもしれない。それでも今ハッキリさせたい、だからそのまま彼をじっと見据えていた。
「あの夜、俺達は橋茂 郁人と会っていた」
「俺、達……?」
そんな言い方をするという事は、匡介さんはあの夜に他の誰かといたということ? それにしても会っていたのが郁人君というのはいったい……?
確かに郁人君は結婚式の夜に匡介さんが帰ってこなかったことを知っていた、でもまさか彼が匡介さんと会っていたなんて。
「君の両親と祖父と一緒にだ。俺達はあの夜に橋茂 郁人を呼び出して、彼が君に危害を加えないよう一晩かけて説得しようとしていた。あの男は隠れて俺達の結婚式にも紛れ込んでいたから……」
知らなかった。私だけなにも気付かないまま匡介さんとのこの結婚に何の意味があるのかと、そんなことばかり考えてた。その間もずっと両親や祖父、匡介さんは私の為に動いてくれていたというのに。
「ごめんなさい、私……なにも気付かないままで」
「いや、俺達は杏凛にはずっと気付かないままでいて欲しかったんだ。あの恐怖を忘れていられるのなら、その方が良いと思っていたから」
本当にそうだろうか? 私だけが何も知らないまま、過去を消し去ってのほほんとしている。その陰で匡介さんたちがどんなに気を使っているのか気付きもしないで?