桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
郁人君の事は少しずつ時間が解決してくれるはず、匡介さんさえ傍にいれくれれば。そう思っていたけれど、事件の後始末や彼の仕事が忙しい時期に重なり私は家で一人過ごすことが多くなった。
机に置かれたままのスマホ、着信履歴やメッセージも香津美さんや月菜さんからのものばかり。匡介さんからメッセージが送られてくることなんて滅多にない。
「何度確認しても同じ、そう分かってるのにね……」
スマホをタップしてメッセージを確認しても彼とのトーク履歴は以前と変わらないまま。せめて一言でも何か送ってくれれば私だってこんなに苦しくはならないのに……
夜に魘されれば、いつの間にか匡介さんがタオルと水の入ったグラスを持って私の傍にいる。もう数週間もそんな日々が続いていた。
そこまでしてくれている彼が、どれだけ疲れてるか考えもしないで……ある日私は彼に酷い態度を取ってしまう。
「今夜、帰れないかもしれない」
「そうですか、分かりました」
彼の言葉に私は少し不安を感じたが、なるべく冷静に返事をすることが出来たと思う。だけどこんな状態で一人にされるという寂しさから私は思っても無い事を口にしてしまった。
「別に一人でも大丈夫なんです、毎晩ああして私の相手をするのも疲れるでしょう? 気にしなくていいですよ」
「……杏凛」
どうして素直に、不安で寂しいから傍にいて欲しいと言えなかったのだろう? 傷付いた表情の匡介さんから逃げるように私は自室へと戻りドアを閉めた。
持て余した感情を八つ当たりと言う形で匡介さんにぶつけてしまう自分自身に自己嫌悪しながら。