桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
ヒラヒラと手を振る鵜方先生にお辞儀をして診察室を出る。診察室の近くで待っていてくれた月菜さんにお礼を言って、調剤薬局でいつもの薬をもらってタクシーに乗り込んだ。
「なんだか少しスッキリした顔をしてますね、杏凛さん」
「そう、かしら?」
言われてみれば鵜方先生と話す前の苦しさが少しだけ楽になっている気がする。理由は分からないけれど、何故だか自分の答えがもうすぐ見つけられそうな気がして。
自分を犠牲にして相手の事ばかり……そう鵜方先生は言った。もし私だけでなく匡介さんもそうなのだとしたら、もう少し頑張れそうな気がする。
「月菜さんは柚瑠木さんの事を諦めようと思ったりしたことはある?」
「ええっ? そうですね、本当に何度も挫けそうになって。でも私は誰より柚瑠木さんが好きだったので、やっぱり諦められませんでした」
恥ずかしそうに話す月菜さん、きっとあの柚瑠木さんと心を通わせ合うまで何度もつらい思いをしたのだと分かる。それでも彼女は……
「諦められない、そんな時は諦めなくてもいいのかしら?」
「いいんです! もしそれでも駄目なら私の胸を貸しますから、だから……っ!」
こんなに真剣に応援してくれる月菜さんに、胸が熱くなる。匡介さんと上手くいかなかったとしても、こうして受け止めてくれる人がいる。
……少しずつ、私の中で勇気が膨らんでいくようで。
「そうね、ふふ。その時は貸してもらうわ」
「はい!」
ここに来た時とはまるで違う、前向きな気持ちで私たちはレジデンスへと戻っていく。バックの中のスマホが何度も震えている事に少しも気付かないままで。