桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
契約結婚でも自然に笑えて
複雑な思いを抱えたまま、匡介さんの後ろを黙って歩いてついて行くだけで。
そんな時、私はふわりと甘い香りにつられて通り過ぎたお洒落な喫茶店を振り返る。ああ……そういえばこの喫茶店は雑誌で見たことがある、確かハニートーストが人気のお店だったはず。
少し前まで結婚式の準備で忙しかった事や、そのためのダイエットなどのために気にはなっていたが結局行けずじまいだった。
……本音を言えばこのお店が今も気にはなってる。だけどハニートーストが似合うとは思えない夫の匡介さんのことを考え、私は何事も無かったように前を向き直し歩き出そうとした。
「……ああ、通り過ぎてしまったようだ」
そう言うといきなり匡介さんが振り返り、私の手を取って強引に来た道をスタスタと戻り始めてしまった。慌ててついて行こうとすると匡介さんはすぐに足を止め、そのままキョロキョロと周りを見回している。
さっきから匡介さんが何をしたいのか分からない、せめてもう少し話してくれればいいのになんて思ってしまう。だけど……
「この店か……」
「あの匡介さん、何を言って……え?」
匡介さんが目を止めたのはさっきの喫茶店、もしかして匡介さんは私がここを気にしていた事に気付いたの? 信じられないという顔をして匡介さんを見上げれば、彼はそんな私を見て少しだけ眉間に皺を寄せてみせた。
「君も俺にはこんなお洒落な喫茶店は似合わないと言いたいのか?」
「……ええ?」
予想していなかった彼の台詞に私は上手く答えられず、少し間抜けな返事をしてしまった。