桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
契約結婚の相手が彼なんて
……子供の頃から彼の視線が何となく苦手だった。
私に話しかけるわけでもなく、一歩引いた場所からジッと見つめてる事に気付いた時からずっと。別に匡介さんから嫌がらせを受けたとかいうわけではないの。
でも親から挨拶するように言われ彼に近付けば、必ずと言っていいほど視線を逸らされた。嫌わられる理由なんて思いつかなかったけれど、自然と私も彼には近付かないようになっていた。
……けれど親たちの集まりに呼ばれ顔を出せば、そこにはいつも彼の姿があった。そしてあの人から感じる視線もずっと変わることは無かった。
親しい友人に相談すれば「きっと気があるのよ」なんて言われたが、とてもじゃないけれどそんな風には思えなかった。彼の私に対する態度からはそんな甘さなんて感じられなくて……
それに私は知っている、匡介さんに傍には彼の事を特別に想う女性がいつもいる事も。
綺麗な人だった。彼の幼馴染で、きっと将来のお嫁さんでしょうねと両親が教えてくれた。
その時の話を自分がどう思ったのかはよく覚えていない。もしかしたら少しだけガッカリしたのかもしれない、自分が見つめられているのだと自惚れていたのかもしれないと。
「……それなのに、何で今更?」
匡介さんに渡された数枚の書類、その一番上には契約書の文字……
まさかこんな形で私と彼が婚姻を結ぶことになるなんて、誰が思っただろう?両親だって呆然としていたし、私もまださっきの出来事が信じられないでいる。