桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
契約結婚の優しさに触れて
「————っつ! はあっ……はっ、う……」
上手く息が出来ない、酸素を吸っても身体がうまく取り込めないかのように喉がヒュッヒュッと音を立てる。目の前がグルグルと周り、頭の中でぐわんぐわんと大きな音を鳴らされてみたに感じる。
……これが初めての事ではないけれど、何度経験しても慣れることは出来そうにない。せめて苦しんでいる表情を匡介さんに見せないようにしなくては、と身体を丸めて顔を隠そうとしたのだけど。
「杏凛! そんなに下を向かないでくれ、余計に息が苦しくなるかもしれない」
匡介さんは立ち上がり私の隣に来ると、その大きな手でそっと俯いていた顔を上げさせてしまう。発作の苦しさもあってか彼の手を振り払う事が出来ず、私はその表情も簡単に彼に見られてしまって。
夫婦として一緒に暮らしていれば、遅かれ早かれこういう状況になる事は分かっていたのだけど……それでもやはり自分の苦しむ姿を見られたくない気持ちはあった。
私にはまだ契約という形でしかない結婚相手の匡介さんに、弱い自分をさらけ出すだけの覚悟は無かったの。
「だい、じょうぶ……ですからっ……はっ、あ……だから」
途切れ途切れの言葉は匡介さんにうまく伝わらないかもしれない、それでも自分に気を使う必要なんてないと伝えようとしたの。
でもその瞬間、彼の手が椅子と私の身体の隙間に差し込まれて……
「え? あ、きゃ……っ!?」