桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
行き場の無くなったその手を匡介さんはしばらく見つめていたが、小さな溜息をついてそのまま引っ込めてしまう。どう考えても今のは私が悪い、それなのに……
「悪かった、杏凛が俺に触れられたくないことくらいちゃんと理解している」
どうしてそんな事になるの? 私が言ってもいない事をそんな風に勝手に決めつけないでよ。匡介さんが私を混乱させるような事ばかりをしてくるからこんな態度になるのに。
「違います、今のは……匡介さんが、あんなことを言うから」
これでも私は、彼に触れられたくない訳じゃないと伝えたつもりだった。だって本当に彼が私に触れて嫌だと感じたことは無いのだから。
「分かってる、俺の言葉はいつも君に嫌な思いをさせている。次からは気を付けるから……」
「だから、そうじゃないって言ってるんです!」
話し途中の匡介さんを黙らせるように、普段出す事の無い大きな声で言葉を被せる。こんな風に匡介さんばかりに気を使わせたいわけではないし、彼の言葉で嫌な思いもしていないのだから。
「杏凛、君もそんな大声を出すことがあるんだな」
驚くところがズレているのが、やはり匡介さんらしい。だけどそんなところも嫌いだとは思わなかった。
だからと言って特別な意味で好きだとも言えないのだけど。