桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
母が部屋を出て言った後で、もう一度最初から契約書に目を通す。この契約結婚は匡介さんの方から提案されたものだが、その内容はどれも私にとって都合のいい事ばかり。
匡介さんは遠くない未来に鏡谷コンツェルンを引っ張っていく大切な人になる。そんな彼に私とのこの結婚で得られるメリットがどうしても見つからない。
「あの人はいったい何を考えているの……?」
彼になら三年間でも飾りの妻になりたいという女性はたくさんいるのではないか、ならばどうして三十路近い私をわざわざ妻に選んだのか。
あれもこれも分からない事ばかりで……
契約書と同時に渡された妻の欄だけ未記入の婚姻届け。先に書かれた匡介さんのサインを見て思う、迷いなど一切ない字だと。これに署名捺印をしてしまえば私は鏡谷 杏凛となり、三年間だけ彼の妻となる。
ペンを取り、ゆっくりと書いた自分の名前は少し歪んで見えた。
それは震えた私の手の所為なのか、それとも――――?
数日後、契約書と婚姻届けを匡介さんに渡す。彼は小さく頷いて受け取るとこれから結婚までのスケジュールについて説明してくれた。
形だけの契約婚だというのに、結局彼は私を上手く言いくるめて半年後に盛大な結婚式まで行ったのだった……