桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
ですが、当然という顔をして匡介さんも私の後ろから階段を上ってきます。私はそのまま奥へと進み料理教室の扉の前でもう一度振り向いて言いました。
過保護なのはもう十分なんです、これ以上は彼にもついてくる理由は無いはずですから。
「……だからっ、ここまで着いてこなくても大丈夫です。私は小さな子供ではないんですよ!?」
それだけを伝えると、少し乱暴だとは思いながらも匡介さんの大きな背中をぐいぐいと押して帰らせようとしました。ですが、身長が190㎝を超えるガッチリとした体型の彼が普段運動をしていない私に動かせる訳もなく……
「夫の俺が君の心配をするのがそんなに迷惑か? この日のために残業まで調整してきたのに」
迷惑とか迷惑じゃないという問題なのでしょうか? いえ、やはり迷惑のような気もします。
どうして残業を調整するのがこの日の為なんでしょうか? 私の為を思うのならもっと別の日だっていいはずです。
「そういう事じゃなくて、私は自分で出来る事を探したいと言ったはずです。それなのに匡介さんがここまでついて来てしまっては意味が無いんです!」
今のままでは自分が一人で何もできない人間になったよう感じる、そういう気持ちは何でも出来る匡介さんには分からないでしょうね。
もう少し自分に自信が持てるように、何かを始めたい。そのためには傍で匡介さんが助けようしてくれていては意味がない。
「だから、俺は君が大丈夫だと分かれば……」
それはどれくらいで分かるのですか? そう言って結婚してから匡介さんは私を一人で行動させようとしないじゃないですか。
そう言い返そうとしたその時……
「あなた達は何を騒いでいるんですか?確か今日から新しく入会された鏡谷さんですよね」
後ろから声をかけてきた男性には見覚えがあって……ああ、この人は確か寧々の幼馴染の料理講師のはず。
「確か入会するのは奥様の杏凛さんだけと聞いてますが。旦那さんはどうしてここに……?」
どうやら寧々から話を聞いていたようで、講師の男性は匡介さんを見て少しだけ眉を寄せた。