桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
契約結婚に戸惑いを隠して
「はあ? あの旦那様がついて来たんですか、奥様の料理教室に?」
今日も朝から来てくれている寧々は食器を洗う手を止めて、驚いた様子で本棚の整理をしていた私の方を向いた。彼女の反応は当然だと思う、普通はわざわざ料理教室に夫はついてきたりしない。
それも結婚して平日は、私の事をほとんど放ったらかしにしていたのに……
「訳が分からない、誰だってそう思うわよね? 扉の外でずっと待たれていては、気が散ってしょうがないのよ」
香津美さんや月菜さんはあえて何も聞かないでくれたけれど、周りの生徒さんからチラチラと見られるし恥ずかしいじゃない。匡介さんはそういうのを気にしないでいれるのかもしれないけれど、気の小さい私は違う。
何度かあの時の料理講師の男性が話をしに行ってくれていたけれど、彼は最後まで扉の前から動かなかった。
「そう……ですよね。まさかそんな事になるなんて」
「幼馴染の彼から聞いて無いの? ああ、もしかして営業妨害だと思われたのかも……」
思い出せば思い出すほど次に教室に行くのが躊躇われる。もう少し私の事を一人の大人として扱ってもらわなければ、このままではとても困る。
料理教室にはもちろん通いたい、せっかく出来た香津美さんと月菜さんという友人に会えるのはこの時だけなのだから。
「あー、彼とはちょっと今……そういえば、旦那様が何度か映画について尋ねて来られたんですが……杏凛様、旦那様と何か約束されました?」
「……え?」