桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
匡介さんと映画、それには確かに心当たりがあって……
一度二人で出かけた時に、彼は次は映画を見に行こうと私に言ってくれたのだった。だけどその予定はすぐに彼の休日出勤で消えてしまい、そんなものだろうとすっかり忘れてしまっていた。
だけど匡介さんはあの時の約束をちゃんと覚えてくれていたの?
「その反応だとやはり旦那様が喜ばせようとしていたのは杏凛様で間違いなかったようですね」
寧々のその言葉にじわじわと頬が熱くなっていくのが分かる。あの人が私を喜ばせようとしているなんて、そんなはずは……
そう思いながらもどこか期待してしまう自分もいたりする、少しくらいは妻である私の事も考えてくれているのかもしれないと。
「でも、匡介さんは私にはそんなこと一言も……」
「そりゃあそうでしょう、旦那様だって自分が喜ばせたい相手にはカッコつけたいでしょうし?」
カッコつけたい? 匡介さんが私相手にいったい何故? 不思議に思って寧々を見ると、彼女は呆れたような顔をしてこれ見よがしに溜息をついた。
「前々から思っていたんですが、杏凛様って鋭そうに見えるのに結構鈍感なところありますよね。旦那様が少し気の毒な気もします」
匡介さんが気の毒になるって、そんなに私は鈍いのかしら? 今まで匡介さんは何も言ってこなかったけれど、そんな私に不満を感じているのかもしれない。
そう考えるとますます匡介さんとの間に見えない距離を感じるような気がした。