桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「お、おかえりなさい」
彼が選んでくれた服を着ることがこんなに照れ臭いものだとは思わなかった。もし何も反応が無ければ寂しい気もするけど、気付いてもらえたとしても恥ずかしさはある。
匡介さんの顔をまともに見れなくて、俯いてその場に立っていると彼がゆっくりとこちらに近付いてくるのが分かる。
「俺の選んだ服を着てくれたんだな、杏凛。その顔を上げてちゃんと君を見せてくれないか?」
「……はい」
そんな言い方されてしまうと、嫌とは言えなくなる。彼がすぐに気付いてくれたことは嬉しい、でも今は少し頬が赤くなってるかもしれないのに……
黙って待っている匡介さんにゆっくりと顔を上げて見せると、彼はじっと私の事を見つめてくる。
「あの……どうですか?」
「ああ、すまない。見惚れてしまっていた、とてもよく似合ってる」
見惚れ……? 匡介さんが私なんかに、そんな事あるわけ無い。そう頭の中で否定しようとするけど、彼の言葉を喜んでしまっている自分がいる。
形だけの妻でしかないのに、彼はこうやって本当の妻のように扱ってくれる時があるから。
「この服で、良かったんですよね? 今日は夫婦でデート……で合ってますよね?」
こんな事を聞いて来る妻なんて面倒だと思われるかもしれない。だけど彼の口からちゃんとその言葉を聞きたいと思ってしまった。
けれど匡介さんはその言葉を聞いて、一瞬驚いた顔をして……
「あ、ああ。そうだな、今日は夫婦の……デートだ」
少し戸惑った様子でそう答えた。もしかして私だけが勝手にデートだと思い込んでしまってた? 彼のその反応に少しだけ不安を感じたが、その事にそれ以上触れることは出来ず彼に連れられて家を出た。