桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「今日は電車で目的地まで行こうと思っているんだが平気か?」
「電車、ですか……」
そう言われて少し迷った、普段は歩きか車での移動ばかりで人の多い電車になんて何年も乗ってはいなかったから。いつもの匡介さんなら絶対に私を車に乗せていたのに、今日に限ってどうして?
私は電車に乗る事が怖いのではなく、人の多い場所で発作を起こして周りの人に迷惑をかけるのが嫌なのだけど……
「もちろん杏凛が嫌だと思うのなら無理強いするつもりはない。たまにはいつもと違う事にチャレンジしてもいいかと思っただけだ」
匡介さんは最近私の担当医である鵜方先生と二人で話す事が増えた、もしかしたら彼は私の病気について何かアドバイスを受けているのかもしれない。
それならば……
「いえ、それなら電車で行きましょう。何かあった時は、すみませんがお願いします」
「……ああ、俺が君の傍にいるから安心して欲しい」
いつもいつも臆病になって色んなことを諦めてしまっていた。けれどこうしてこの人が傍にいてくれるというのなら、私も少しだけ前に進めるかもしれない。
……あの日以来、初めてそう思えたの。だからついその事について、匡介さんに聞いてしまっていた。
「……匡介さんは私の病気についてどの程度の事をご存じなんですか? 私はその日の記憶がほとんどなくて」