魔法の恋の行方・魔女の告白(シリーズ4・バージルとレティシア)
バージルは視線をそらさず、不思議な生物を
観察するように小さい声で言った。
「え・・?」
しばらく間があり・・
娘も自分の姿に驚いたようで・・
「ぐぇ!」
カエルのような声をあげて
飛び起きた。
そしてベッドの上に両手をついて
頭を下げて座り込んだ。
「ああ、やっちまった!
今晩は新月だったか!
忘れていた!」
その声・・その言い方・・
「君は・・レティ・・なのか・!」
バージルの疑問は確信に変わった。
では・・この姿はなぜ?・・・
バージルはそばにあった十字架を取り、握りしめた。
悪魔ではないようだから、効くかどうかもわからないが・・
「君は・・魔女だな!・・
真実の名前を言いなさい!」
魔物に遭遇した時は、
真実の名前を言わせることで、
退散させることができるはずだ。
もしくは使役できると・・・
何かの本で読んだ覚えがある。
「真実の名前を言いなさい!」
毅然とした態度であることも、
重要なはずだ。
「言わなければ、食事は抜きだ!」
<ああ、
なんと間が抜けていることか・・>
バージルは脱力しそうなのをこらえていた。
<食事>という単語に娘の肩が
ひくっと動き、緑の瞳でバージルを見上げた。
「もちろん、豚の腸詰もだめだ!」
<あまりにもなさけない・・>
自分で言いながら
バージルは笑うのを我慢していた。
娘は首を垂れた。
「・・レティシア・・」
「家名は何と言うのだ?!」
バージルは十字架を持ち、迫った。
娘は唇をかんで、躊躇しているようだったが
「言わなきゃ・・だめか・・?」
「もちろんだっ!」
バージルは逃がさないように
娘の腕をつかんだ。
細くて折れそうな腕だった。
とうとう娘はバージルの強い口調に負けたようで
「うう・・カサンドラ・・だよ」