彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
準備をして車で出かけた柊と樹里が向かった先は。
金奈市でも山側にあるオシャレなチャペルだった。
森林に囲まれ空気も良く、澄み渡る青空が綺麗に見える場所に建っているチャペル。
柊と樹里がやってくると、スーツ姿の女性が待っていた。
「お待ちしておりました、宗田様」
丁寧な挨拶で出迎えてくれた女性は、従業員のようで胸に名札がついていた。
「こちらへどうぞ」
案内され柊と樹里はチャペルの中へ入って行った。
「奥様は、こちらへどうぞ」
樹里だけ別の場所へ案内された。
カラーン…カラーン…チャペルの鐘が鳴り響いている。
暫くすると。
綺麗なチャペルの祭壇の前に、白いモーニング姿の柊が立っていた。
祭壇の後ろにはほっそりした神父が立っている。
ゆっくりと扉が開く音がした。
介添人に連れられ、純白のウェイディングドレスに身を包んだ樹里が入っていた。
露出が少ない首元から胸元までレースで覆われた、フンワリした可愛いデザインのウェディングドレスに、白いレースのヘッドドレス。
綺麗にメイクをして、髪をアップにしている樹里は宇宙と似ているが、とても気品に溢れている。
介添人が柊の隣に樹里を連れて来た。
隣に来た樹里をそっと見た柊は、とても綺麗な樹里に驚いて見惚れてしまった。
樹里は恥ずかしそうに視線を落としていた。
「とっても綺麗ですね」
柊が声をかけると、樹里はゆっくりと視線を上げた。
目と目が合うとニコっと笑ってくれる柊。
「驚かせてしまってごめんなさい。結婚式はやらないと言われましたが、やはり一生に一度の門出になりますから。ちゃんと結婚式をしたかったのです。なので、この療養中にと思ってここを予約しました」
「…私でいいのですか? …」
「どうしてですか? そんな事を言わないで下さい。俺には、勿体ないくらいの人ですから」
「私…貴方と貴方のお父さんの事、ずっと憎んでいました。…正直、殺意も持っていました」
「はい、そうですね。知ってましたよ、ずっと感じていましたから。でも、それでも俺の気持ちは変わりませんから」
「私が…子供が産めなくても…変わりませんか? 」
一瞬だけ柊の目が怯んだが、すぐに笑顔に戻ってくれた。
「2人の結婚に、子供が産めるかどうかは問題ではありません。大切なのは、愛し合う事です。この先、子供がいない人生でも俺は全然問題ないと思っています。2人で愛し合い、ともに歩いてゆく事が大切ですから」
子供が産めなくてもいいの? 私の事必要としてくれるの?
スッと樹里の頬に涙が伝った。
その涙を柊は、ハンカチを取り出しそっと拭った。