彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
暫くして樹里は病室へと移された。
分娩は思ったより随分安産で、陣痛から4時間足らずで産まれて来てくれた。
2人も同時に産まれることで大変そうだったが、随分と楽な出産で医者も驚くくらいだ。
「樹里、有難う。頑張ったね」
そっと樹里の額に触れ、柊が笑いかけてくれると樹里も笑い返した。
「貴方がいてくれたから、この子達を産むことが出来ました。お礼を言うのは、私の方よ」
「この子達は、僕と樹里の本当の人生を戻してくれた子達だよ。女の子と男の子が一緒に来てくれるなんて素敵だね」
「うん、そうね」
「名前なんだけど、女の子には檁(りん)男の子には橸(まさ)って考えたのだけど。どうかな? 」
「素敵な名前ね。それでいいと思うわ」
可愛い双子の姉弟に無事名前も付けられ、新しい出発が始まった。
誘拐された2人の子供が結婚という形で、偶然にも本当の両親い出会え事は奇跡に近い。
そしてその2人の下に、まるで再現するかのように来てくれたのは双子の姉弟だった。
暫くして。
いったん仕事に戻った柊と入れ替わりに、宇宙が病室に来てくれた。
すやすやと眠っている檁と橸を見て、宇宙はとても嬉しそうに微笑んでいる。
そんな宇宙を見て、樹里はちょっと恥ずかしそうに目を向けた。
「…お父さん…」
お父さん。
そう呼ばれて、宇宙は驚いて樹里を見た。
恥ずかしそうな目をしている樹里だが、今まで目を合わせてくれなかったが、今はちゃんと目を合わせて見てくれていた。
「樹里ちゃん…僕の事、お父さんって呼んでくれたの? 」
「はい…」
お父さん…樹里に初めてそう呼ばれると、宇宙は感動で胸がいっぱいになって来て目が潤んできた。
「…ごめんなさい。私は、素直ではありません。…本当は、部屋で写真を見た時からずっと気づいていました。…私の事を、本当の娘だと思っていると言われた時。嬉しい気持ちと、今まで辛かった気持ちが込みあがってきて素直に認める事なんてできなかったのです。…でも…こうして、自分が親になって、檁と橸が産まれて来てくれて。心から喜びを感じました。…こんなに嬉しいのに、この子達のどちらかでもいなくなってしまえば、言い知れない悲しみに包まれてしまうと思います。それなのにずっと、28年もの長い年月を子供は生きていると信じて諦めなかった…。そんなお父さんは、とっても強くて愛が深いのだと今更思いました…」
「樹里…」
ギュッと宇宙は樹里を抱きしめた。