彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
初めて
バスタオルで濡れたら打を拭いて、フカフカのバスローブを身にまとい広いベッドに向かった柊と樹里。
ベッドの端にお互い距離を置いて座ると、ちょっと緊張した顔になった樹里。
柊は冷静な表情のまま樹里を見ていた。
「…私、上野坂家の本当の娘ではありません。上野坂家が、女の子が欲しくて高額を出して私を買ったと聞かされて育ってきました」
「そうだったのですか。それで、樹里さんはいつも悲しそうな目をしているのですね」
「何度も上野坂家を出て行こうとしましたが、その度に父に止められました。…今回、結婚を選んだのはもう上野坂家にはいたくないと思ったからです」
「なるほど、そうでしたか。でも俺は、それでも嬉しいです。樹里さんが、俺なんかを選んでくれた事が奇跡だと思いますから」
スッと柊が樹里の傍へ近づいて来た。
「樹里さん、大切なことを話してくれて有難うございます。俺も、ちゃんと話しておきたい事を話します」
じっと真剣な目で樹里を見つめてきた柊。
視線を落としていた樹里だが、柊の熱い視線を感じるとゆっくりと視線を上げた。
目と目が合うと。
柊の赤い瞳がとても情熱的でドキッと胸が高鳴った。
赤い瞳の人って…あの人以外に見た事なかったけど、他にもいたんだ…。
思わず柊の瞳に見惚れてしまった樹里は、そのままじっと見つめていた。
「俺。宗田家の本当の子供ではありません」
え? どうゆうこと?
樹里が驚いて目を見開くと、柊はそっと目を細めて笑みを浮かべた。
「驚かせてしまい、ごめんなさい。…隠し事をしたままでは、嫌なので…。この事は、父さんにも話した事はありません。俺が、感じ取って分かった事なんです。その事で、母さんはずっと自分を責め続けていました。それで病気になり、早くに命を落としてしまったのです。…俺は、宗田家では養子になっています。正当な後継ぎではありません。でも、父さんが後を継いでほしいとい俺に頼んできましたので。言う通りにしようと思いました。血の繋がりがない俺の事を、ずっと育ててくれたせめてもの恩返しだと思っています」
「そうだったのですか…」
「血の繋がりは大切ですが、一緒に暮らしてきた時間の方がもっと大切だと俺は思っています。なので、これからは樹里さんと過ごす時間の中で幸せな家族を作れたらと俺は思っています」
家族…。
幸せな家族ってなんなんだろう?