彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

女性の影は？

　柊と樹里が宗田家に戻ったのは１０時を過ぎた頃だった。


　リビングのドアを開けて、柊と樹里が入ってくると、ソファーに座って新聞を読んでいた宇宙がそっと顔を上げた。

「お帰り」

　優しいお父さんの表情で微笑んでくれる宇宙。
　現在６０代になろうとしているが、とても若々しく柊と歩いていると兄弟と間違えられることもあるくらいである。
　綺麗な顔立ちのイケメンで、サラサラの茶色い髪が魅力的。
　目元もきりっとしていて切れ長の目が、見ているだけで虜になりそうなくらいだ。
　体系もスラっとしたままで、背丈も推定188㎝程あるくらい高い。

　爽やかなブルー系のポロシャツに、若々しい紺色のジーンズ姿がとても似合っている。

「ごめんなさい、父さん。急に外泊してしまって」
「いや、構わないよ。結婚して、2人きりで旅行だって行けていなかったじゃないか。気を使わなくていいから、好きな時に外泊すればいいよ」

「有難うございます。父さん、朝ご飯は食べましたか？　」
「ああ、自分で作って食べたから大丈夫だよ」

　柊は食卓を見てみた。
　食卓の上には、朝食の残りらしき卵焼きが残っていた。

　卵焼きを見てみると。
　宇宙が作ったにしては、とても綺麗に作ってある。
　いつも宇宙が作った卵焼きは、焦げていてそれでいて甘すぎるくらいだった。

「この卵焼き…」

　柊は卵焼きを見て何かを感じたようだ。
　
　柊の隣で、同じように卵焼きを見た樹里はちょっとだけ驚いたような目をしていた。


「2人とも、今日はどこかへ出かけるのかい？　」
「はい。この後、ショッピングモールに行こうかと思っています。まだ足りない日用品もあるので、食材も買い足しておこうと思いますので」

「そっか。じゃあ、私も出かけてくるよ」
「え？　どこに行くのですか？　」

「うん、ちょっと出かけるだけだから。そんなに遠出はしないから、心配しなくていいよ」

　
　行き先を言わないなんて珍しいなぁ。

　そう思いながら、柊はじっと宇宙を見ていた。

　どこか嬉しそうな宇宙。
　昨夜は一人きりで、この広い家にいたのに寂しそうな顔はしていない。
　なんとなくウキウキしているようにも見える宇宙に、柊はちょっとだけ疑問を感じた。