彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「あれ? 今日のお味噌汁とっても美味しいですね」
お味噌汁を飲みながら柊が言った。
「この具材の切り方は、もしかして父さんが作ってくれたのですか? 」
「ああ、少し早く目が覚めたから作ってみたよ。相変わらず、具材を切るのは下手だけどね」
確かにそうだ。
刻んであるネギは繋がっているし、豆腐もぐちゃぐちゃになっている。
ほうれん草が入っているが、大きく切ってあり葉の部分がつながっている。
「やっぱり、樹里さんの方が上手ですね」
ニコッと笑って柊が言った。
「女性には叶わないよ。樹里ちゃんが来てくれて、本当に良かったよ」
私は家政婦じゃないけど。
なんとなく樹里はそう思った。
朝食が済むと、柊は出勤して行った。
「樹里ちゃん、僕は用があるから出かけてくるよ。お昼は外で済ませてくるから、ゆっくりしてていいよ」
「そうですか…」
そっけなく返事をした樹里。
なんとなく宇宙は樹里が気になった。
この広い家に一人にされるのは、寂しいのかもしれない…。
樹里を気にしつつ宇宙は外出して行った。
宇宙が外出した後。
一人になった樹里は、ササッとかたずけを済ませた。
一通り家事を済ませて、一息ついたのは9時を回る頃だった。
見渡しても広い家。
この広い家にポツンと一人残されると、なんとなく独りぼっちのような気になる。
ごみの整理でもしておくか。
そう思い、樹里はリビングのごみを集め始めた。
すると…
「あれ? 」
不意に気にとまったのは、リビングのゴミ箱の中にあったメモ。
クシャっと捨ててあるが、そこにはどこかの住所が書かれていた。
「…リッチ―ルヒルズ…。あのお金持ちだけが済んでいる、一角の住宅地にある高級マンション? 」
ゴミの上の方にあったという事は、最近捨てたメモだろう。
もしかして昨日捨てたのだろうか?
何となく樹里はメモに書かれていた、リッチ―ルヒルズが気になり始めた。