彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

 
 エレベーターで1階エントラスへ降りてきた樹里は、電話をかけ始めた。

「もしもし…。はい、お相手は承諾してくれました。…はい、日程調整をして下さい。…はい、分かりました…」

 エントラスを出てきた樹里は、電話を切って小さくため息をついた。

 どこか何かを思い詰めたような顔をしながら、歩き出した樹里。


「待って下さい! 」

 後ろから声がして、樹里は足を止めて振り向いた。

 
 エントラスの向こうから、走って来る柊の姿が見え眼鏡の奥で驚いた目を向けた樹里。
 
 なんなんだろう? 
 そう思いながら、走って来る柊を見ていた


 走って来た柊は、樹里の傍に来るとニコっと笑いかけてきた。

「せっかく来て頂いたので、送って行きますよ」
「いいえ、結構です」

「そんなこと言わないで下さい。これから、共に歩いて行く仲じゃないですか」

 そう言いながら樹里の手を握った柊。
 
 あったかい…。
 男の人の手って、こんなに暖かいんだ。

 握られた柊の手は、見かけとは違いとても暖かくホッとさせられた。
 大きくて頼りになりそうな手をしていて、包み込んでくれるような安心感がある。

 こんな人をどうして、裏切る人がいるのだろう?

 そんな事を思っているうちに、柊は歩き出した。

 
 ちょっと引っ張られる感じで歩き出した樹里は、何だか子供が親に引っ張られて歩いているようにも見える。
 
 イケメンの柊が大柄の女性の手を引いて歩いている姿は、通り行く人の目を引いていた。

 珍しい情景を見るかのように、通り行く人が振り向いているのを見て樹里はちょっと恥ずかしそうにしていたが、柊は平然として周りを気にしていないようだ。 
 
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