彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

「いつもそうだった。…私の事ダメな人間だって言って…どうしてそんなこと言われるのか、小さな頃は分からなかったけど。…兄さんに全部聞いたわ。…私が、お金で買われてきた子供だって…」
「え? お金で買われてきた? 」

 睨みつける様に見ている樹里を見て、女性は底知れぬ怒りと悲しみを感じた。
 
 樹里の兄…大紀は、優の前妻の子供でありジュリーヌと優が出会ったのは前妻が亡くなって半年経過した頃で赤ちゃんだった大紀を一緒に育ててほしいと言われて結婚を選んだのだ。
 喪が明けてから入籍をしようと言われ、一緒に住み始め、大紀のお世話を中心に上野坂家で暮らし始めた…。
 大紀にとっては物心つく頃から一緒にいた事から、本当の母親だと慕ってくれていた。
 周りから見ても後妻とは思えないくらい仲が良く違和感がなかった。

 しかし…。
 樹里が養女に来てから、大紀は無口になりだんだんと心を閉ざし始めた。
 歩み寄っても突き放され、授業参観にも来なくていいと言われるようになり、中学に入ると大紀は心を閉ざしてしまった。
 樹里とは6歳年が離れていて、優しいお兄ちゃんとして接してくれていたように見えていたが。
 まさか、大紀が樹里が養女である事を知っていたとは…。


「大紀さんが、貴女にそんな酷い事を言っていたとは…。知らなかったとは言え、酷く傷つけてしまいましたね。ごめんなさい…謝っても、許される事ではない事は承知しています。でも、貴女は決してお金で上野坂家に買われてきた子供ではありません。それだけは、信じて下さい」
 
 信じて下さいって言われても…信じられるわけないでしょう?
 いつも「だめな人間」って、あんただっていっていたじゃない!

 信じられないと言わないばかりの目をして、樹里はジュリーヌを睨んだまま黙っていた。 

「…ごめんなさい。…全部、私が悪いのです。…恨むなら私を恨んで下さい。…どんな事でも、あまんじて受けます。20年の間、貴女の事を苦しめてしまったのですから…」

 そう言いながら、女性は帽子とサングラスをとった。

 帽子とサングラスをとった女性は、この世の人とは思えない程、とても綺麗な顔をしている。
 いつの日か樹里が携帯で見ていた、優の隣にいた女性だった。


 女性は、ゆっくりと樹里に歩み寄って行った。

 近くに来ると、女性は綺麗な赤い瞳である事が判る。
 白いと言うよりも青白い肌に、赤い瞳がとても綺麗に輝いて見える。

 間違いなくこの人は、20年前にいなくなった母だ。
 樹里はそう確信した。


「…ごめんなさい樹里」

 すっと深く頭を下げた女性。
 その姿勢はとても美しく、まるでどこかのお姫様のように気品が溢れている。
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