彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「ずっと、忘れていた事を許して下さい…。思い出した時は、もう20年の月日が流れていたのです。…貴女ももう大人になって、きっと…私の事を忘れていると。そう思いたかったのですが…」
ゆっくり頭を上げて見つめてくる女性の表情を見ていると、どこかで見覚えがあると樹里は思った。
丁寧な言葉使い…そして赤い瞳…。
とても近い人のような…。
「ジュリーヌ、どうかしたのかい? 」
呼ばれる声がして、女性はハッとなり振り向いた。
ジュリーヌが振り向いた先にいたのは宇宙だった。
「宇宙さん。…申し訳ございません。…娘の樹里に会ってしまいましたので…」
「え? 樹里さん? 」
女性ことジュリーヌの傍にいる樹里を見て、宇宙は驚いた表情を浮かべた。
樹里は驚く宇宙を見て、知られてはいけない秘密を知られてしまったのだろうと思った。
2人してこのマンションで密会していたの?
あの時ショッピングモールで見たのは、やっぱりこの2人だったんだ。
20年もこんな場所に隠れていたら、見つかるわけがないか…。
また樹里の中で込みあがって来る怒りを感じていた。
「あ…そう言えば、ここの住所を書いた紙をリビングのごみ箱に捨てたから。見つかったのかな? 」
見つかったのかな?
何をのんきなことを言っているの?
一緒に暮らしている家のごみ箱に捨てるなんで、見つけてくれって言っているようなものだけど?
樹里は憮然と宇宙を見た。
「ここに…母をずっと隠していたのですか? 」
「え? 」
「ここなら見つからないから、ずっと母の事を隠していたのでしょう? 」
ギュッと口元を引き締めて、樹里は宇宙を睨みつけた。
20年の間ずっと押し殺してきた感情が、油断すると爆発しそうで抑えるのが必死だった。