彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
食卓の上に持ってこられたのは、高級名菓子店のタルトだった。
樹里は昔同じタルトを見たことがあった。
食卓に置いてあるお菓子を食べたいと思ったが、兄の大紀がやって来てお菓子を全部持って行ってしまい、そのまま自分の部屋に行ってしまった。
いつも大紀は独り占めして樹里には食べさせてくれなかった。
欲しそうな目をすると「金で買われた奴が、物欲しそうにするな! 」とバカにして笑っていた。
「遠慮なく食べていいよ。ずっと、ここに樹里ちゃんを招待したいってジュリーヌさんと話していたんだ。ごめんね、こんな形で知らせる事になってしまって」
ムスっとしたまま樹里は俯いていた。
招待しようと話していたと言われても。
話が違いすぎて頭が混乱しているのが本音だった。
樹里はジュリーヌは宗田家で酷いめにあわされ傷つけられていると、大紀に聞かされていた。
助けてほしいと言う手紙も届いていた事から、ジュリーヌはもしかしたら監禁されているのではないかと思っていた。
だから…宗田家に来たのだ。
「樹里。…20年も長い間、何も知らせないまま心配をかけてしまってごめんなさい。聞いていると思いますが、私は記憶を失っていました。思い出す事が非常に怖くて、頭に響く激痛から避けていました。でも時々、貴女の事は夢に出てきていました。樹里…ごめんね…と夢の中で謝っていたのですが、誰なのかを思い出せないままでした。貴女が柊さんと結婚する話を聞いて、少しずつ思い出してきたのです。赤ちゃんの時の貴女の事や…ずっと、私が貴女にして来た事を…」
ずっとして来た事。
そう聞かされて、樹里はギュッと唇を噛んだ。