彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「ごめんなさいと謝っても、許してもらえない事は承知しています。…私、上野坂さんと結婚して。幸せだと思っていました。…でも…上野坂さんは、いつも家にいなくて。ずっと孤独を感じていました。それでも、私がやる事は立派に子供を育てる事しかないと思ってしまって。…それでも、大紀さんは離れて行くばかりだったので。私が力不足だからと思ってしまい、つい、満点をとらない貴女を責めてしまっていました。でも…その後はいつも後悔して。ずっと自分を傷つけていました…」
自分を傷つけていた?
どうゆう事?
チラッと、樹里はジュリーヌを見た。
ジュリーヌは辛そうな目をして、左腕の袖をまくり上げた。
袖をまくり上げたジュリーヌの腕の内側には、深い傷跡が残っていた。
その傷はナイフかなにかで切られたような傷跡で、古くなっているようだが生々しく残っている。
「この傷は…家族旅行に行く前の日に、自ら命を断とうとして自分でやりました」
「え? 」
「ごめんなさい。あの家族旅行の時、私の心は崩壊寸前でした。大紀さんに、必要ない人間だと言われてしまったのです。…元々、私と大紀さんは血が繋がらない親子だったので。ずっと「あんたなんか母親じゃない」と言われ続けていました。中学生になった大紀さんは、夜遊びをするようになり学校からも呼び出されることも多くなっていました。注意をするといつも「母親面するな! あんたは本当の母親じゃない! 」と言われてしまって…。本当の事なので、何も言い返すことができませんでした。その事を、上野坂さんに何度も相談しようとしても、いつも忙しいと言われて話せないままでした…」
一息つき、ジュリーヌはまくっていた袖を元に戻した。
そんなジュリーヌを見ると、樹里は不意に思い出した。
まだ樹里が小学生になった頃だったが、ジュリーヌが部屋で一人で声を殺して泣いていた姿を見た事があった。
どうして泣いているのか、まだ小さかった樹里には判らなかったが、きっと自分がテストの点数が悪い事で泣いているのかもしれないと子供ながらに思っていた。