彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「家族旅行を計画してくれた事は、嬉しさを感じました。でも…大紀さんとどう向き合ったらいいのか分からなくなってしまい…私がいなくなれば、穏やかになるのではないかと。そう思ったのです。…意識が遠ざかる中を、上野坂さんが助けてくれました。…家族旅行は中止にしようと言ってくれましたが、みんなが楽しみにしている旅行を中止にしたくはなく。そのまま、予定通り旅行に行く事にしたのです。…でも…その旅行が、その後の人生を大きく変えてしまうとは思ってもいませんでした…」
ジュリーヌはゆっくりと、視線を窓の外へと移した。
窓の外は夕焼けが綺麗に輝いている。
大きな窓から見える夕焼けは、まるでドラマのワンシーンのようで別世界にも見えた。
「あの家族旅行の時。…私を殺そうとした人がいます…」
殺そうとした?
驚いた樹里は目を見開いてジュリーヌを見た。
ジュリーヌは遠い目をして、ギュッと口元を引き締めていた。
「私を殺そうとしたのは…大紀さんでした」
「兄さんが? どうして? 」
「きっと、私に対しての憎しみが爆発したのだと思います。みんなが寝ている間に、大紀さんはこっそり宿を抜け出して外に行ってしまいました。気になったので追いかけたのですが。追いかけて来た私に気づき、突然ナイフを持って襲いかかろうとしてきました。…逃げても追いかけてきて…追い詰められ、刺されると思った時。足を踏み外して転落してしまったのです。…山道で、真っ逆さまに転落して。その後は分かりません。…気づいたら宗田さんに助けられて、何もかも忘れていました…」
(母さんはお前のせいでいなくなったんだ。お前が嫌になって、出て行ったんだ! )
20年前。
ジュリーヌがいなくなり、優は真っ青になり探していた。
樹里もまだ幼いながらも、母親がいなくなり怖いと思って探していた。
だが…
兄の大紀は冷静な顔をしていた…。
警察が来て滋養を聞かれても大紀だけは「いつも正常な人じゃなかったから。もしかして家でしたかも」などと言っていた。
20年の間ジュリーヌがいなくても、特に心配する事もなく口癖のように「お前のせいで、母さんはいなくなったんだ」と樹里に言っていた。
ジュリーヌの話しが本当だとすると。
大紀は自分が殺そうとした事で、ジュリーヌがいなくなったことを知っている故に冷静だったのだろうか?
知らされていた事実が全く違っていた事を聞かされ、樹里は困惑していた。
「樹里ちゃん、大丈夫? 」
顔色が悪くなった樹里を心配して、宇宙が尋ねるた。
「はい…」
小さく返事をした樹里。