彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

「はい、もしもし。…父さん? どうしたのですか? …はい…」

 電話で話している柊をチラッとみた大紀は、懐からキラッと光るナイフを取り出した。

 柊の背中を見て大紀はニヤっと笑った。

「ええ? そうなんですか? それなら是非伺いますよ。分かりました…」
 
 嬉しそうに電話で話していた柊だが…。

 グサッと! 背中に強い痛みを感じて表情をしかめた。

 電話を切らないまま、ゆっくりと顔だけ振り向いた柊の視界に入ったのは鋭い目つきでニヤッと見ている大紀がいた。

「っつ…」

 苦痛なうめき声を漏らしてその場に倒れた柊。

(もしもし? 柊? どうしたんだ? )
 
 電話の向こうで宇宙の声が聞こえる…。

 大紀は抜き取ったナイフを懐に隠して、その場を走り去って行った。


「きゃー! 」
「人が刺されている! 」
「誰か救急車! 」
「警察呼べ! 」

 通り行く人が騒ぎ始めた。

 倒れた柊からは多量の出血が広がって行く…。


 遠くから救急車のサイレン音とパトカーのサイレン音が鳴り響いてくる…。






 金奈総合病院。

 救急車で柊が運び込まれ、緊急処置が行われた。


 間もなくして連絡を受けた宇宙と樹里が病院へ駆けつけてきた。


 手術中のランプを目にして、樹里は不安そうな表情を浮かべている。

「大丈夫だよ、心配いらないから」
 
 傍にいる宇宙が樹里を励ますために言ったが、樹里には聞こえていないようだ。

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