彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
疑惑
翌日になり、樹里はウトウトと目を覚ました。
柊が眠るベッドわきで椅子に座って、そのまま眠っていた樹里。
何もかけないで座っていた樹里だが、目が覚めると毛布が掛けられていた。
循環に来た看護師さんがかけてくれたのだろうか?
そう思った樹里だが…。
ふと、柊を見ると首までかかっていた布団が胸のあたりまで下がっていた。
まさか毛布かけてくれたの?
まだ眠っている柊は、とても穏やかな表情で眠っている。
窓からは朝日が差し込んできてた。
時刻は6時30分を過ぎた頃。
コンコン。
ノックの音がして、看護師が入って来た。
「おはようございます。もうすぐ朝食の時間ですが、患者さんまだ眠っていらっしゃいますね」
「はい」
「じゃあ、検温は朝食の後に来ますね」
「判りました」
返事をした樹里に、看護師はニコっと笑いかけた。
「奥様、すごく旦那様に愛されているのですね」
「え? 」
突然何を言い出すのだろう?
樹里がキョンとしていると、看護師は毛布目をやった。
「深夜の巡視の時、旦那様が奥様に毛布を掛けてくれていたのを見たのです。まだ傷口が痛むのに、ソファーに置いてある毛布を取りに起き上がっていたのでびっくりしました。巡視に来てびっくりして、手伝おうとしたのですが「大切な人なので自分でやります」って言われたのです」
まさか…麻酔から覚めたばかりで、そこまで…。
「とっても愛されているのだと、思いましたよ。麻酔から覚めたばかりなのに、一人で起き上がれるなんて驚きですから」
看護師の話を聞くと、樹里は納得できた。
柊の布団が胸元までずれていたのは、起き上がったからたっだのか。
麻酔から覚めて、傷口も痛むのに…それでも毛布を掛けてくれるなんて…。
「それではまた来ますね」
看護師が去って行った後。
樹里は柊に歩み寄って行った。
すやすやと眠ている柊を見ていると、胸がじんわりと熱くなるのを感じた。
「…ん…」
うつらうつらと、柊が目を覚ました。