彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
 
 ぼんやりとした視界に樹里の顔が映ると、ハッと目を見開いた柊は満面の笑みを浮かべた。

「樹里さん。傍にいてくれたのですね、有難うございます」
「いえ…」

 スーッと手を伸ばしてきた柊。
 
 どうしたものかと樹里が様子を見ていると。
 
 ギュッと柊の手が樹里の胸を掴んできた。

 キャッ! と言いたかた樹里だったが、握られた感覚が心地よくて声にならなかった。

「生き返ります…。痛みも、引いてゆきます…」

 え? 何を言っているの?
 樹里は良く判らない顔をしていたが、柊はとても嬉しそうな顔をしていた。

 胸を掴む事で元気になるのだろうか?
 男の人って、怪我をしていてもそう言った欲は強いのだろうか?

 疑問を感じながらも樹里は黙ったまま、柊の好きにさせていた。


 
 暫くして朝食が運ばれてきた。

 ベッドを起こして用意された朝食を、柊は一人で食べ始めようとしたが背中が痛み苦痛な表情を浮かべた。

「あの、良かったら私がお手伝いしましょうか? 」
「いいんですか? 」

「はい。一応私、貴女の付き添いでいるので」
「そうしてもらえると助かります。ちょっと恥ずかしいですが、お願いします」


 朝食は和食で、ご飯とお味噌汁と卵焼きとウィンナー、そしてデザートにヨーグルトが用意されている。

 ゆっくりと樹里がご飯を食べさせてくれると、恥ずかしそうに食べる柊。
 
 
 誰かに食べさせてもらうなんて、大人になってから経験するとは思わなかったけど、こうゆうのもいいなぁ。
 そんな事を思いながら柊は樹里からご飯を食べさせてもらっていた。


 ご飯が終わると歯磨きをするためゆっくりとベッドから出た柊。

 洗面台までは数歩の距離だが、歩く度に傷口に響いて痛みを感じた。

 樹里は痛そうに歩く柊をそっと見ていた。


 歯磨きが終わりベッドに戻ると、ほっと一息ついた柊。

「樹里さん、今日はお仕事は? 」
「今日は休みにしてもらいました。ご心配なく」

「いいのですか? お仕事、大変そうですが」
「大丈夫です。このような事態ですから」

「すみません、ご迷惑をおかけして」
「迷惑だとは思いません。こんな状態の時に、仕事に行く方がおかしいと思いますので」
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