彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

「残念ですが、急に刺されたので相手の顔は見ていません。だた、派手な服装の人が通り過ぎて行ったような姿を見たような気はしますが。よく覚えていません」

 何となく何かを隠しているように宇宙は感じたが、あえて気が付かないふりをした。

「そっか。目撃者もいるようだから、逮捕されるのも時間の問題だと思うが。暫く気を付けて、できるだけ一人で歩かない方がいい」
「はい、そうします。暫くは、入院と自宅療養なので丁度いいと思っています」

「そうだな」


 通り魔?
 複素は見えても顔は見えなかったって事?
 なんか変な気がする。

 傍で聞いていた樹里は違和感を感じていた。





 お昼を過ぎた頃。

 駅前オフィス街にあるオフィスビルの一角。
 15階のフロア全部を貸しきっている「上野坂グループ」がある。
 主に金融関係取り扱っているグループ会社で、貸金業がメインであるが取引先は大手企業ばかりで個人は資本金1000万以上の個人事業主のみ取り扱っている。
 各国に支社があるが日本が本社である。

 ずっと社長が不在であったが、ここ2ヶ月は日本で仕事をしている。
 
 上野坂グループ社長は上野坂優、樹里の父親である。

 上野坂優。
 掘りの深い顔立ちで、威厳のある紳士的なタイプ。
 ほっそりとしていて、インテリーなメガネをかけているが、口調は優しく社員からもとても慕われている。
 学生時代は野球をやっていて、甲子園にも出場するくらいの実力者で社会人になってもジムに通い体を鍛えている事からがっしりとした長身である。
 オシャレな茶系のスーツに、ネクタイはブルー系のストライプ。
 髪は短髪でスポーツマンの名残を残している感じである。

 社長室は赤い絨毯が敷き詰められ、デスクは木製の茶色で椅子は高級革の背もたれ椅子。
 沢山の書類とパソコンをにらめっこして仕事をしている優は、とても厳しそうな顔つきをしている。

 
 プーッ…プーッ…。
 内線が鳴り、優は電話に出た。

「はい…。え? …」

 青ざめた顔つきになった優は、そのまま電話を切って社長室を出て行った。

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