彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
迫る闇
「上野坂さん。息子さんの連絡先を、教えてもらえますか? 」
「はい…」
メモ帳を取り出し、優は大紀の携帯番号を書いて刑事に渡した。
「その電話番号から連絡が来ていました」
「有難うございます。もし、息子さんから連絡がありましたら我々の方へ教えて下さい。重要参考人として、探しておりますので」
「判りました…」
重たい表情のまま優は刑事を見送った。
そのまま社長室へ戻った優。
力なく椅子に座ると、優は1年ほど前に大紀を家から追い出した時の事を思い出した。
1年ほど前。
優がアメリカから帰国すると、大紀は家でゴロゴロしていた。
一時期はアメリカ支社を任せていた事もあったが、会社のお金を横領した事もあり解雇して自分で仕事を見つけるように言い渡した。
日本に帰国してから、大紀はちょくちょくとアルバイトをしていたがどれも長く続かないままで、そのうち優名義のカードを勝手に使って高額な買い物をしたりキャバクラで使いたい放題使うなど豪遊をし始めた。
それを知った優はカードを停止した。
カードが使えなくなると、定期預金を勝手に引き出して使い始めた事から優は通帳も全て取り上げ貸金庫に預けてしまった。
貯金もカードも取り上げられた大紀は、家の中で大暴れしていたが優が取り押さえそのまま家から追い出してしまった。
何度か家に入れてくれと戻って来た大紀だったが、優が断固として入れなかった。
そのうち来なくなり電話がかかってくることが多くなったが、優が「自分で働いて稼ぐこと。そして横領したお金を返すまで家に入れない」と言って決して許さなかった。
そのうち諦めて音沙汰がなくなった大紀。
樹里が結婚が決まっても大紀に知らせることはなかった。
優の中では大紀が改心するまでは、親子の縁を切るつもりで一切手を出さないと決めた。
しかし。
傷害容疑がかかるとは…。
(お父さんはいつも、私の事は信じてくれない。兄さんことばかり信じている。…もういい、私、結婚してこの家を出るから! )
激怒した樹里が優に言った。
初めて激怒した樹里に、優はとても驚いて言葉を失った。
確かに優はジュリーヌがいなくなり、ショックを受け現実を見ないようにしていた。
樹里を見るとジュリーヌを思い出し辛く、見ないようにしていた。
樹里は大紀に酷い事をされていると電話してきたり、メールを送って来ていたが、優は見ないふりをしていた。