彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「判りました。そうしましたら、その費用は私が用意します」
(本当ですか? )
有希の声色が変わったのを感じた優は、これは何かあると確信した。
「はい。なので、一度お会いしてもらえませんか? 直接お渡ししたいともいますので」
(分かりました。それでは、明日の夜にお会いできますか? )
「明日の夜ですね。それでは、当社のオフィスまでお越し頂けますでしょうか? ご用意しておきますので」
(分かりました。大樹さんは、動けないので私が変わりに伺います。よろしくお願いします)
「はい、お待ちしております」
電話を切った優は少し厳しい目をして遠くお見つめた。
「中園有希…確か、宗田ホールディングにいた筈…」
暫く遠くを見ていた優は、携帯電話を取り出した。
少し強張った表情で電話をかけ始めた優。
「…もしもし、上野坂です。…すみません、お話したいことがあるのですが。お会いする事は、できますでしょうか? …はい…そうですか。では、今夜お伺いしても宜しいでしょうか? …はい…では、伺う前にお電話しますので。…はい、では宜しくお願いします…」
電話を切った優は、小さくため息をついた。
すると…
ピピッ…ピピッ・・。
知らない番号から優の携帯に電話がかかってきた。
見知らぬ番号に誰なのだろう? と警戒心をもちつつ、優は電話に出た。
「はい、上野坂です」
(…もしもし…)
電話の向こうの声に、優は驚いて耳を疑った。
聞き覚えのある女性の声。
その声に胸がキュンとなり、グッと込みあがる想いが溢れそうになって来た。
(優さん…。ジュリーヌです…)
ジュリーヌの名前を聞くと、優の目が潤んできた。
「ジュリーヌ…本当に、ジュリーヌなんだね? 」
(はい。…長い間、申し訳ございませんでした。…怪我をして、記憶を失っておりましたので…)
「今は? もう思いだしてくれたのか? 」
(はい。まだ、忘れている部分もありますが)
「良かった…無事で…」
潤んだ目から涙が溢れてきて、優が目頭を押さえた。
(ごめんなさい。…連絡もしないまま、私だけ…)
「そんな事は気にすることはない。君が無事ならそれでいい…今はどこにいるのだ? 」
(リッチ―ルヒルズのタワーマンションにいます)
「え? あの高級住宅地に? 」
(はい。ある人に、匿って頂いておりました)
「匿ってもらっていた? 」