彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「大丈夫ですか? 」
想いより先に、優は女性に駆け寄っていた。
駆け寄て来た優にびっくりした女性は、直ぐに逃げ去ろうとしたが足が痛くて動けなかった。
「ちょっと見せて下さい」
足の裏が痛そうな女性。
見てみると、足の裏にくぎのようなものが刺さっていた。
「これは酷い、病院に行きましょう」
「いいえ、結構です。抜いてしまえば、直ぐに治りますので」
「だめです! 無暗に抜いたら、出血が酷くなります。私が連れて行きますので」
ひょいと、女性を抱きかかえ優はそのままタクシー乗り場へ向かった。
タクシーで金奈総合病院へ運ばれた女性は、足の裏にくぎが刺さっていてわりと深くまで入りおんでいたようだ。
釘を抜くのも慎重で、治療に時間がかかったが無事に手当ても終わり傷口も1週間ほど安静にしていれば治って行くと言われた。
ひとまず安心した優は、女性の治療費をすべて支払った。
「ご自宅はどちらでしょうか? 送って行きますので」
「いえ、一人で帰りますのでどうぞご心配なく」
一人で帰ると言う女性だが、釘が刺さっていた右足は包帯がまかれていて一人で歩けるような状態ではなかった。
「一人でなんて無理ですよ。送ってゆきますので」
「いいえ、私は大丈夫ですから。…早く、家族の下へ帰ってあげて下さい。待っているご家族が、いらっしゃるのではありませんか? 」
そう言われて優はハッとなった。
時刻は17時30分を過ぎていた。
大紀を迎えに行く時間が、いつもより遅くなっている事に気づいた。
そんな優の表情を見た女性は、そっと微笑んだ。
「早く行ってあげて下さい。助けて頂き、有難うございます。後程、お礼に伺います」
「それではお名前を教えて下さい。私は、上野坂優と申します」
言いながら優は名刺を渡した。
「私はジュリーヌと申します。お名刺、有難うございます」
上品な受け答えに優は見惚れてしまった。
どこかのお嬢様だろか?
でも、何だろう…とても不思議な感じがする…。
そう思う中。
その日はそのまま女性ことジュリーヌと別れた優。
それから1週間ほど経過した日。
優は再びジュリーヌと再会した。
初めて会った時とはまた違うイメージのジュリーヌ。
白いワンピースに、首元にはお揃いの色のマフラーを巻いていた。
でも素足で靴を履いていなかった。
初めて会った同じ駅前で再びジュリーヌに出会った優。
その時は、大樹を迎えに行った後で一緒に連れていた。