彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「先日は本当に有難うございました。これ、その時の治療費です」
渡されたのは大きめの封筒だった。
その中には100万円の札束が3つほど入っていた。
「こんなにかかっていません。頂きすぎです」
「いえ、おそらく保険適応外でしたのでそのくらいはかかっていると思われます。それに、移動に使われたタクシー代金もかかっていると思いますので」
「それでも、こんなに頂く事はできません」
「どうぞお気になさらず。大切な、お子様も待たせてしまったと思いますので」
まだ4ヶ月目の大紀は優の腕の中でスヤスヤと眠っていた。
「とても可愛いお子様ですね」
大紀を見て嬉しそうに微笑んでくれるジュリーヌ。
そんなジュリーヌを見て優は…
「あの、子供は好きですか? 」
「え? 」
突然尋ねられ驚いたジュリーヌ。
「実は…この子の母親は、不治の病で亡くなってしまったのです」
「そうだったのですか…」
「今は私が一人で、この子を育てています」
「男性の方がお一人で? それは大変ですね。お仕事もあられるのですから」
「はい…」
優はじっとジュリーヌを見つめた。
そして…
「ジュリーヌさん。この子の、母親になって頂けませんか? 」
「はぁ? 」
驚いて目を丸くしたジュリーヌ。
だが、優はとても真剣な眼差しでジュリーヌを見つめていた。
「いえ…すみません。…貴女に初めてお会いしてから、ずっと忘れられなくて。胸が痛んでいたのです。妻を亡くして間もないのに不謹慎だと思っていました。それでも…止められない気持ちがあるのだと、痛感しているのです」
「お待ち下さい。私は…そんな事…」
「貴女じゃなくてはだめです! 」
大紀を抱いたまま真っ直ぐに見つめてくる優の眼差しが、とても温かくてジュリーヌは何も言えなくなり俯いてしまった。
「私に3ヶ月だけ時間を頂けませんか? 」
「3ヶ月ですか? 」
「はい。その期間に、貴女を振り向かせることが出来なければ諦めますので」
「でも…」
「お願いします。決して、自分が楽をしたくて言っているのではありません」
「それは分かりますが…」
優に抱っこされていた大紀が目を覚ました。
ぱっちり開いた目を、ゆっくりとジュリーヌに向けて来た大紀は、ジュリーヌと目と目が合うとニコっと笑った。
そんな大紀を見ると、ジュリーヌは胸がキュンとなった。