彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「貴方の事を嫌いだなんて、思ったことはありません。一緒に暮らしていた日々は、とても幸せでした」
「それなら、離れる事はないじゃないですか」
「…私が地底人でも、いいのですか? 」
「全く問題ないです。大切なのは、お互いの気持ちですから」
ジュリーヌは何も言えなくなった。
優の想いに押されて、ジュリーヌはそのまま結婚に承諾して大紀の母親になった。
戸籍がないジュリーヌだったが…。
結婚を決めて2週間後。
仕事から帰って来た優は一通のパスポートをジュリーヌに渡した。
そのパスポートには、ジュリーヌの写真が貼ってあり上野坂ジュリーヌと証明されていた。
どうゆう事なのか判らない顔をしているジュリーヌに、優は言った。
「私の仕事上、あまり人には言えないが裏家業をしている人もいる。世の中には事情があり、戸籍を売っている人もいるんだ。その中で問題を抱えていない人の戸籍を売ってもらって、ジュリーヌの戸籍にしてもらったんだ。これで、ここに居ても胸を張って暮らせる。大紀の母親として、胸を張って生きて行けるだろう? 」
こんなことまでしてくれるなんて…。
ジュリーヌは嬉しくて言葉が出なかった。
こうしてジュリーヌは戸籍を手に入れ、優とも入籍して本当の夫婦になれた。
大紀もすくすくと育って6年の月日が経過しようとしていた。
そんな時だった。
ジュリーヌが子供を授かったのだ。
大紀がいるから子供は作らない方がいいと言っていたが、優は自然に任せればいいと言っていた。
特に避妊していたわけではなかったが、ずっと子供もできないままであきらめかけていた時のことだった。
優は大喜びして安心して産んでほしいと言っていた。
大紀も解る年頃で、弟か妹が来てくれたと喜んでいるように見えた。
だが…。
ジュリーヌがが臨月を迎えた頃。
大紀が小学校から帰ってくると、ジュリーヌがいなくなったと優に言ってきた。
どこに行ったのか分からず捜索願を出そうとしていたが、あまり騒ぎ立てるとジュリーヌが戻ってこれないのではないかと優は水面下で探していた。
2ヶ月を経過した時。
大紀が「お母さんが帰って来た」と言ってきた。
仕事から優が帰ってくるとかなりやせ細ったジュリーヌがいた。
どこに行っていたのか、どうしていたのか、それを聞く前にジュリーヌが無事に帰って来た事が嬉しかった優。
しかし臨月で大きかったお腹はへこんでいた。
「子供はどうしたんだい? 」
そう尋ねられると、ジュリーヌは真っ青な顔をした。
「子供は…いなくなりました…。気づいたら、どこかの産婦人科にいたのですが。…産まれて間もなく、どこかに連れて行かれたと言われました。そのほかの事は、覚えていません」
青白い顔をしたジュリーヌが、震えるように言った。