彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
近くで見ると、柊はとても綺麗な顔立ちをしている。
まつ毛も長くて肌の色も透明感あふれる白さだ。
「やっぱり似ている…ジュリーヌと…」
柊の寝顔を見て、小さく呟いた優。
ピクっと柊の瞼が動いて、ゆっくりと目を覚ました。
ぼんやりとした目であたりを見て、優を見た柊。
「あれ…」
ぼんやりしていた視界がハッキリしてきて、柊は優に気が付いた。
「あ…樹里さんのお父さん。…来てくれたのですか? 」
「すまないね、寝ている所を」
「いえ、すみません気が付かなくて」
両肘をついて半身を起こした柊は、まだ傷口が痛むのかちょっとだけ顔をしかめた。
「わざわざ来て頂いたのに、このような格好で申し訳ございません」
「気にすることはないよ。暫く、ゆっくりと休むといい。色々あって大変だったんだから、休息をもらったと思ってゆっくりしたらいいと思うよ」
「はい、そう思っています。この事がなければ、こうして休める時間もありませんでしたので。ちょっとだけ、感謝しています」
優しい口調の柊を見ていると、どうしてもジュリーヌと重なる。
ジュリーヌも物腰が低くて口調も優しかった。
どこかのお姫様のような気品に溢れる姿は、見ているだけでうっとりするくらいだった。
柊も同じ感じがする…。
「樹里は、宗田家にはなれましたか? 」
「はい、初めに比べると随分と慣れてくれたように思います。樹里さんの作ってくれる料理は、とても美味しくて。いつも元気が出るので、嬉しいです」
「それは良かった。母親がいなかったので、樹里が食事を作ってくれる事も多かったです。お手伝いさんもいましたが、夜遅くなった時は樹里が作ってくれる事もありましたので」
「樹里さんはとっても優しい人ですね。感謝しています、こんな俺の事を選んでくれた事を」
「そうだね…」
何故だろう。
ほんの少し言葉を交わしているだけなのに、柊に対して愛しさを感じる。
なんとなく昔の自分を見ているような…そんな気にさせられるのは気のせいなのだろうか?
「柊君。たまには、私の所にも遊びに来てくれないか? 」
「え? いいのですか? 」
「ああ、私も今は一人でいるから。樹里と一緒に来てくれると嬉しいよ」
「そうですか、じゃあ退院したら是非お伺いしますね」
「楽しみに待っているよ」