彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
外に出ると空には一面の星空が広がっている。
駅裏にあるわりと広い公園。
並木道もあり、遊具もたくさんあり芝生もある。
夜の公園は誰もいない。
そんな公園にポツンと一人で、ベンチに座っている樹里がいた。
星空を見ながら、ちょっと怖い目をしている樹里。
スーツ姿で分厚い眼鏡をかけている樹里は、生真面目に見えるが、髪がボブヘヤーまで伸び顔を隠すくらいの長さで表情が隠れいる。
こんな夜更けに一人で暗い公園にいるなんて…。
ピピッ。
鞄の中から携帯電話の音が聞こえ、ハッとなった樹里はギュッと鞄を抱きしめた。
まるで音が聞こえないように抱きかかえている樹里…。
携帯の着信音が鳴り終わると、抱きしめていた腕を緩め一息ついた樹里。
「樹里さん」
後ろから声がして、ビクッとなった樹里はそっと振り向いた。
振り向いた先には、心配そうに見つめている柊がいた。
どうして…ここに?
突然現れた柊に驚く半面、どうしてここに柊が現れたのか不思議な気持ちが湧いて来て、樹里は頭の中がボーっとなってしまった。
「ごめんなさい。急に来てしまって…。実は、前からここに樹里さんが一人でいるのを何度か見かけました。何か思いつめている様子だったので、きっとお仕事の事で大変な事を抱えているのかもしれないと思って声をかけないまま先に帰っていました」
見られていたのか…。
それなら、ここに来ても不思議じゃないなぁ…。
「今日は…いつもと違う感じがしました。…」
ん? と、樹里は柊をちょとだけ見た。
樹里を見つめる柊の目が潤んでいた。
悲しいのか…辛いのか…何か思いが込みあがってきたような目をして、じっと樹里を見つめている柊。
「樹里さん。ちゃんと、話しませんか? 俺と、向き合ってもらえませんか? 」
向き合うってなに?
私とは政略結婚だから、そんな事必要ないって思っているんでしょう?
2ヶ月一緒にいたって…。
「俺…樹里さんの事、本気で愛しています…」
愛している? まさか!
耳を疑った樹里だが。
チラッと柊を見ると、潤んでいた目から頬に涙が伝っていた…。