彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

「お前がジュリーヌを嫌いでなければ、私はジュリーヌと離婚はしない。後は、どうするかゆっくりと自分で考えてみなさい。もう、過去の事は何も言わない。この先、お前がどう生きてゆくかだけを見て行けばいい。どんな事があっても、お前が私の息子である事は変わらない。そして、養女であっても樹里も私の大切な娘だ。それだけは、分かってほしい」

 分かっている…きっと頭では分かている。
 でも気持ちがついて行けない。

 どうしたらいのか、その答えがすぐに出るわけではないが。
 ただ今やるべきことは大紀には判っていた。


 
 その夜。
 大紀は自分の部屋で寝る事になった。
 何年振りかの自分の部屋だが、綺麗にかたずけてあり、ベッドカバーも洗ってありカーテンもきれいに洗ってあった。
 換気もきちんとされていて、何年も着ていなかったような感じはしなかった。

 ベッドに横になると、家で過ごして数々の思い出が思い出されてきた。

 大紀が物心つく頃からジュリーヌは傍にいた。
 大紀は本当の母親だと信じて疑わなかった。

 保育園でも「大紀君のお母さん、とっても綺麗な人だね」とみんなから言われる事が嬉しかった。

 
 でも小学生なったとき。
 大紀と別々にお風呂に入るようになったジュリーヌが、洗面所に指輪を外しているのを目にして興味心でじっくり見ていると、内側に刻まれている文字が見えてきた。
 優からローマ字を教えてもらていた大紀は、指輪の裏側の文字を読む事ができ、ジュリーヌが結婚したと思われる日付が自分の産まれた日よりも後であると気づいた。
 それを見て本当の母親ではないのだと知った大紀は、一人だけポツンと取り残されたような気になり悲しくなってきた。
 しかし指輪を見たことは言えないまま、いつもと変わらないジュリーヌに一人だけ距離感を感じ始めていた。
 
 次第に、いつか自分は捨てられてしまうのではないかと不安になってきた。

 その不安は日々増してゆき、ジュリーヌが子供を授かったと聞かされると、その子が産まれたら自分は捨てられると強く思い込むようになった。

 ジュリーヌのお腹が大きくなるのを見ていると、赤ちゃんが元気に育っている事を見せつけられ、産まれる近づいてくると不安が恐怖に変わって行くのを子供ながら強く感じた。

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