彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「俺を責めないのは、樹里の為か? 」
大紀は少しだけ表情を緩めた。
「いいえ、誰の為でもありません。これでいいと、俺が判断した事です。結果的に、こうして休息をとることが出来ているので俺にとってはラッキーな事ですから」
そう受け止めるのか?
こいつ変わっている…でも…
なっか見ていると憎めない奴だ。
フッと小さく大紀は笑った。
「俺は、もうお前に近づいたりしないから。安心していいぜ」
「どうしてですか? 」
「俺は、人の邪魔ばかりしたがる。俺なんかいると、迷惑だしな」
「そんなことありません。俺、男の兄弟が欲しかったんです。ずっとお姉ちゃんしかいなかったので、結婚する人にお兄さんがいたらいいのにって思っていましたから」
「俺なんかが兄弟で、いいのか? 」
「ええ、いいですよ。とっても正直な人ですから、嬉しいです」
呆れるくらいお人よしなのか? それとも、平和主義なだけなのか?
まぁ、嫌いじゃないけど。
スッと柊が右手を差し出してきた。
ん? と大紀が見ていると、柊はニコっと笑った。
「これからよろしくお願いします。お兄さん」
ここは握手するべきなのだろう…。
ちょっと照れた様子で、大紀は柊の手を握った。
わぁ…こいつの手、すげぇ温かい…。
この温もり、どっかで感じたことがあるような気がするけど。
「とっても逞しい手をしていますね」
手を握って柊はとても嬉しそうな顔をしているが、大紀は照れているようだ。
「俺、今無職だからこれから就活するんだ」
「そうなんですか? それなら、うちの会社で働きませんか? ちょうど、営業部が人員募集しているんです。不動産関係も営業しているので、是非来ませんか? 」
「そんな…俺みたいな奴が、あんな大手で…」
「大丈夫ですよ、みんないい人ばかりなので。今ちょうど、会社が立ち直ったばかりで忙しいんです。是非来て下さい」
悪い気はしないが…とりあえず、一度行ってみるか。
ちょっと複雑だったが、大紀は前向きに考えてみる事にした。
病院を後にした大紀はそのままある場所へ向かっていた。