取引きは恋愛関係の始まり
タナトスにホテルに連れて来られるのは初めてじゃない。もう何度もホテルで体だけの関係を作っている。恋という感情を忘れてしまっている私にとって、タナトスとの夜は何も感じなかった。ただ、タナトスがボロを出して捜査に進展があればいい。

「ネメシス」

背後から抱き着かれ、これから事が始まるのだと体が熱くなる。恋や愛という感情がなかったとしても、人は快楽を求めてしまうのだとハニートラップを始めて知った。

いつもなら、二人でさっさとベッドの上に移動している。しかし、今日は何故かタナトスは私を抱き締めたままだった。

「タナトス?」

どこか様子がおかしい。私を抱き締める腕は、まるで私を逃さないとでも言いたいようにきつくなっていく。ガラス越しに見えたタナトスの瞳は、どこか鋭くてドクンと心臓が音を立てた。

「お前もCIAの犬だったんだな」

タナトスの言葉に思考がフリーズしてしまう。何故?何故バレた?私はこれまで疑いの目を掻い潜ってきた。それなのに何故?
< 9 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop