冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「付き合ってないのに体の関係があるってこと? いや、別にもう大人だしそういうのは個人の自由だとは思ってるけど……岩倉さんなにやってんの?とは思っちゃうな」
「あ、違うんです。その、岩倉さんじゃなくて……違う、別の人ですから。岩倉さんは、なにも悪くないんです」

江並さんの口から突然岩倉さんの名前が出てきたので、慌てて否定する。

たしかに、岩倉さんと私の関係はよくないものに聞こえるかもしれないし、あらぬ誤解を生む可能性もある。発言に気を付けるべきだった。

でも、考えてみれば岩倉さんのことを誰かに話すのは初めてで、それにくわえて江並さんが私の話をしっかり聞こうとしてくれているのが表情や雰囲気から伝わってくるので、ついつい口が緩くなる。

社内じゃないし、少し気が抜けているのかもしれない。

「そうなの?」と聞いてくる江並さんに、少し迷ったあと、事情を説明するために口を開いた。

「江並さんがどこまでご存じかはわからないので、重複してしまう部分もあるかもしれませんが」

そう前置きして続ける。

「私、前に勤めていた会社がいわゆるブラック企業だったんです。毎日朝から夜中までずっと仕事に追われて上司に怒鳴られ続けて、たった三ヵ月足らずで体も心もボロボロになってました。でも、当時は壊れかけてる自分に気付く余裕もなくて……ただ、会社に必要とされてるっていう部分にだけしがみついて生きてたんです」

江並さんは「そうだったの」と、同情するように眉を下げる。

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