冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
彼はダイニングテーブルの椅子に座り私を見ていた。
〝そこ〟は岩倉さんの向かいの席なんだろう。視線で指し示され、遠慮がちに椅子を引き腰を下ろす。
命令されたから座っただけで、食事は遠慮するつもりだった……のだけれど。
テーブルに並んだ料理を前にしたら、とてもお腹が空いていたことに気付いた。
あれ、そういえば私、会社帰りにコンビニで買い物をしたはず……と思い、視線で荷物を探していると、岩倉さんが言う。
「コンビニ袋に入った大量の栄養ゼリーなら、おまえの荷物とまとめて寝室に置いてある」
じろっと私を見る目を厳しくした岩倉さんは、テーブルの上に置いた手を動かし、人差し指の指先でトントンとテーブルを叩いた。
「俺が作った料理よりも、あのゼリーが食べたいなんて言いださないだろうな」
鬼上司みたいなオーラを放たれ、黙ってコクコクとうなずく。
私の会社の上司も常に怒鳴っている紛れもない鬼上司だけれど、岩倉さんもそれとは種類の違う鬼に見えた。
美形だからか、険しい顔をされると迫力があって怖い。
「じゃあ、あの、すみません。いただかせていただきます」
鬼モードの岩倉さんを前に〝いただきまーす〟なんて呑気に手を合わせられないし、その前にそんな気力もない。
なので、手を合わせ丁重に頭を下げると、「普通に話せ」とお叱りの言葉が飛んできて心臓がビクッとする。
でも、恐る恐る口に運んだキノコの炊き込みご飯がとても優しい味で、そのせいか、それとも久しぶりに温かい料理を口にしたからなのか、次第に緊張は解けていった。