冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


私は岩倉さんが好きだから、彼に触れられれば心が喜んで、体が過敏に反応する。
そして、浮かれそうになる胸を、暴走しそうになる思考回路を、必死に抑えつける。これは、恋人同士のする愛情溢れる行為とは違うのだと、何度も自分自身に言い聞かせる。

私は岩倉さんが好きだけど、それを告げるつもりはない。

与えられるだけの私が、散々、与えられてきただけの私が、岩倉さんに好きだなんて言っていいわけがない。
それくらい、私にでもわかっていた。


「あれ。桜ちゃん、少し太った?」

二月最初の土曜日。訪ねてきた佐鳥さんが言った言葉にギクリと心臓が鳴った。

今日は岩倉さんはお昼まで仕事なので、本来なら佐鳥さんとの約束は午後の予定だったのだけれど、今は十一時半。

しかも、ここにくるのではなく、ホテルロビーで待ち合わせて上階のレストランでランチをする予定だった。
でも「暇だし、ちょっと早いけど来ちゃった」とインターホン越しに言われれば部屋にあげないわけにはいかない。

岩倉さんに電話をかけたら、さすがにもう到着している佐鳥さんを追い返せとは言わなかったので、上がってもらうことにした。

そして、玄関先で私を見るなりの発言がそれだ。

「ああ、ごめんごめん。女の子に言うことじゃなかったか。でも、桜ちゃんに限っては褒め言葉でしょ。頑張って肉つけようとしてるところなんだから」

佐鳥さんが靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。
前回佐鳥さんと会ってからちょうど今日で三週間が経つ。その間で体重が増えた気はしていたけれど、やっぱりか……とショックを受けた。

美容外科の医師をしている佐鳥さんが言うのだから間違いない。

私が反応を返さなかったからか、佐鳥さんが「あれ、落ち込ませちゃった?」と聞いてくるので慌てて笑顔を作った。

< 119 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop