冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
部屋ごと凍りづけにしそうな岩倉さんの雰囲気とは反対に、用意された料理はどれも疲れを和らげるような穏やかな味がした。
気づけば、ふわっと、いい香りが部屋を包んでいる。
キノコの炊き込みご飯に、アサリのお味噌汁。鶏もも肉と野菜の煮物。ほうれん草の胡麻和え。甘い玉子焼き。
どれも本当においしくて、そういえばいつから自炊をしていないんだっけ、と疑問に思った。
疲れからか、寝起きだからか、まだぼんやりとしている頭や体が栄養価の高い食事に喜んでいるのを感じた。
「あの、すごくおいしいです……。毎日食べたいくらいです」
それは紛れもない本音だし、気分を害すような言葉ではないつもりだったのだけれど、岩倉さんが箸をピタッと止めるものだから慌てる。
「す、すみません。もしかして私、なにか変なことを言いましたか?」
岩倉さんは、やや不満そうな顔をしながらも「なんでもないから気にするな」と言い、食事を進めた。
その様子を眺めていて、今更ながら不思議な展開になったと思う。
このマンションに引っ越してきて数ヵ月。ほとんど話したことのなかった隣人と、急に食卓を囲んでいるのだから、不思議以外いいようがない。
でも、ご飯がおいしいのでいいか、と片付けていたとき、岩倉さんが「ところで」と話しかけてきた。