冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
ここを今から歩くのか……と後ずさりそうになっている私の腰を岩倉さんが支える。そしてそのまま歩き出すので、腰を抱かれているような体勢になり、うつむきながら足を進めた。
岩倉さんは、涼しい顔のままこういうことを意外と平気でする。
並んで歩くときは肩か腰を抱かれるし、車を降りる際、ちょっと私がのろのろしていると助手席側まで回り込まれて手を差し出される。
もしかしたら、ジェントルマン的なマナーの一環なのかもしれないし、誰が相手でもこうしているのかもしれないけれど、一般庶民の私は恥ずかしくて堪らなくなる……と考え、ふと暗い気持ちが落ちた。
そうか……私は――。
「出穂」
自分自身の感情に眉を潜めていたとき、突然呼ばれる。
慌てて見上げると、岩倉さんが私を見ていた。
「あ、はい」
「ずいぶん大人しいが、大丈夫か? 気分は?」
「大丈夫です。その、場違いな気がして、どうしていいかわからなくなっていただけなので」
心配してくれる瞳に笑みを返すと、岩倉さんは「そうか」と表情を和らげる。
「このホテルのラウンジは、たまにクライアントと会う時にも使うんだ。レストランで食事をしたこともあるがなかなかだったし、デザートはバイキング形式で種類も豊富だからきっと気にいる。楽しみにしていていい」
私を気遣ってくれる言葉にうなずこうとしたとき。
「――岩倉さん?」
女性の声が聞こえ、足を止める。
振り向くと、長い黒髪に緩いパーマをかけた女性がこちらを見ていた。