冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


四人分の支払いは佐鳥さんがしてくれることになった。
さすがに申し訳ないと思いお財布を出そうとしたけれど、こういう場では男性を立てるべきだと何かで見たので、大人しくお礼を言う。

こっそり岩倉さんに、〝ホテル内に同額くらいのお土産を買えるお店があるか〟を聞くとすぐに「誘ってきたのはあいつだし必要ない」と言いきられてしまい、今回は甘えることにした。

御法川さんは、〝急な話だったのに快諾してくれた上、ご馳走になったお礼〟として、佐鳥さんにコンサートのペアチケットを渡していた。

クラシックコンサートで、ヴァイオリニストのひとりが御法川さんの友人らしい。
御法川さん本人の佇まいからしても、交友関係からしても、相当なお嬢様なんだろうなと今更思い……この場で私だけが浮いている気がして落ち着かなくなる。

岩倉さんにお手洗いに行くと言い、そっとその場を離れた。

「はー……」

お手洗いの中にある洗面台の前で、大きく息をつく。
お料理もデザートもどれもおいしかったのに、なんだか100%は味わえなかった気がする。

緊張もあったし、雰囲気が……あまり合わなくて、ずっとそわそわしていた。

雰囲気……雰囲気なのかな。
岩倉さんは別としても、他の誰もあの場を壊すような発言も態度もとっていないし、会話だって弾んでいた。

だから雰囲気は決して悪くなかったはず。
なのに、居心地の悪さを感じたのはなんでだろう。

心臓が、ずっと焦るような速度で動いているのは、なんでだろう。
縦に長い楕円の形をした鏡の中の自分をじっと眺める。

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