冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「バレンタインまであとちょうど一週間かー。出穂さんはどうするの? もちろん、岩倉さんにあげるんでしょ? 手作り?」

週明けの月曜日、給湯室の片付けをしている時に江並さんに聞かれる。

時間は十八時過ぎで、ここの片付けが今日最後の仕事だ。
江並さんももう帰れるはずなのに、私に付き合ってカップの片付けやコーヒー用フィルターの補充を手伝ってくれていた。

「あ……いえ。岩倉さんは甘いものは好きじゃないので、あげても迷惑だと……」

〝思う〟と続ける前に言われる。

「そんなわけないでしょ。好意のチョコを喜ばない男なんて世界中探したっていないよ。まぁ、ぱっと見はあれかもしれないけど、岩倉さんだって瀕死状態の表情筋の下ではニヤニヤしてるに決まってるよ」
「瀕死状態……」
「出穂さんなんてとくに普段岩倉さんへの愛情を示せていなそうだし、こういうイベントにはどんどん便乗した方がいいと思うよ。チョコ渡すだけならそこまでハードル高くないし」

江並さんはフィルターの入っていたビニール袋をプラごみのゴミ箱に入れながら続ける。

「手作りでも市販でも、相手のことをいっぱい考えて作ったり選んだりするわけだし、その時間もプレゼントの一部って感じかな。……というわけで、出穂さん、バレンタインにはチョコ交換しようね」

「はい」と答えた私の声に元気がなかったからだろう。
気付いた江並さんが私の顔を覗き込む。


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