冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「でも、今までも退職届を出した社員はいましたけど、受け入れられたことはありませんでしたし、それに、私が辞めたら周りに迷惑が……」
「そんなにひどい職場なら、放っておいても周りの人間もそのうち辞める。とりあえず、明日にでも退職届を会社に郵送しておいて、二週間後に退職できる流れにしておけばいい。勤務期間から考えるとまだ有休が取得できないから、退職するまでの二週間は欠勤扱いで処理するよう、ひと言足しておけ」
「欠勤……」
「たとえ有給が取得できて使える状態だったとしても、話を聞く限り、すんなり使わせてくれるような会社には思えない。周りで休んでいた社員を見たことがあるか?」
岩倉さんに聞かれ……首を横に振った。
就職してからこれまで、誰かが休んだ日はなかった。
どんなに体調が悪かろうと、仕事に行くのがあの会社では普通だった。
私は高校を卒業して三年半フリーターをしたのち、今の会社に就職したから他の企業の〝普通〟は知らないし、少しの差はあってもどこも似たようなものだと片付けていたけれど、もしかしたら違うのだろうか。
そう考え、わずかな希望を抱いている自分に気付いて、慌ててそんな未来を振り落とした。
今までだって誰も辞められていないのだから、私だって辞められるわけがない。